第三幕 亡き当主の研究室

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 だが、薔子は浮かない表情で、首を振る。 「それはありえません」 「どうしてですか?」 「うちの暖炉、祖父の代は使っていたのですが、今となってはすべて飾りで、各部屋は小型の普通のストーブを使っているんです。煙突が開いていると、冬の間は風が入り込んで寒いので、何年も前に塞いでいるんですよ。もし、それを開けるとなったら、職人を呼ばなくてはなりません。そんなことをしたら、絶対に私たちは分かります」  自分の考えが外れて、そうですか、と清貴は落胆したようにうな垂れた。 「この部屋への侵入に関しては、振り出しに戻ってしまいましたね」  まーまー、と秋人は、そんな清貴の背を叩く。 「でもよ、どうにかして入って、ここの毒薬と注射器を使ったのは、間違いなさそうだし、それが分かったのは進展だな」  珍しく落ち込んだ様子を見せていた清貴だが、あっけらかんと笑う秋人につられ、そうですね、と頬を緩ませる。 「さて、気を取り直しまして。薔子さん」 「は、はい」 「亡きお父様、義春さんについてお聞かせくださいませんか?」  にこりと微笑む清貴を前に、薔子は緊張に強張りながら、ぎこちなく頷いた。
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