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一行は、応接室に移動し、薔子の話を聞くことになった。
「父――花屋敷義春は、優しい人でした」
と、薔子はしみじみと語り出す。
「私たちにはもちろん、血のつながらない百合子姉さんにも、とても親切で優しかった。けれど母はいつも、そんな父を視界に入れないように生活していたんです。普段無視をしているのに、ちょっとでも父が気に入らないことを言うと、母は怒声を浴びせて、時に暴力まで……」
薔子は体を震わせて、自分を抱き締める。
清貴は膝の上で、花屋敷家のアルバムを開きながら話を聞いていた。
若き日の義春は、歌舞伎役者のように線が細い美男子だった。
華子の若い頃の写真もある。蘭子が言っていたように、百合子とよく似ていた。
秋人は、うーん、と解せなさそうに唸る。
「華子夫人は、借金に苦しんでいた義春氏を助けてまで結婚を希望したんだよな? それなのに、どうしてそんな扱いをするんだ?」
「私にもよく分からないんですが、もしかしたら母は前夫を忘れられずにいたのかもしれません」
「なぜ、そう思われるんですか?」
と、清貴がすかさず問うと、薔子は弱ったように頬に手を当てる。
「母が、あんなに百合子姉さんを可愛がるのは、前夫を愛していたからではないかと思いまして」
華子が百合子を溺愛する理由を、次女の蘭子は、『ナルシシズム』と言い切ったが、薔子の言葉も一理あるように思えた。
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