第三幕 亡き当主の研究室

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「薔子さんは、お母様の前の結婚が破局した事情をご存じでしたか?」  少しは、と薔子は頷く。 「世間では、母の暴君ぶりに前夫が逃げ出したように噂されていますが、実際はそうではありません。百合子姉さんは六歳の時に病気になり、今のような状態になってしまいました。  それを亡き祖父が、『婿である父親の遺伝子が弱いせいだ』と言い張り、母の前夫を追い出したのです。祖父としては、娘夫婦がなかなか男子を授からなかったことも気に入らなかったようですね。それも婿のせいだと……」  うわぁ、と秋人は顔をしかめる。 「とことん、自分勝手な人だったんだな」  遠慮のない秋人に、清貴は軽く咳払いをし、冬樹は露骨に睨む。  薔子は、その通りですね、と苦笑した。 「母も暴君と言われていますが、祖父には逆らえない人でした。  母は祖父の命令で、花屋敷家を継ぐ男児を産むため、すぐに新たな夫を探さなくてはなりませんでした。ですが、悪名高い花屋敷家の二番目の婿になっても良いという方がなかなか現われない。祖父の秘書は婿になってくれそうな優秀な男性を何人も探し出して、母に写真を見せたそうです。その中から母が選んだのが父でした。容姿が良かったのと大人しいので、言いなりになってくれそうだと思ったのが理由だったのでしょう」  そこまで話を聞き、清貴は納得がいったように大きく頷く。 「それで華子さんは、長女である薔子さん、次女の蘭子さんと立て続けに出産し、最後に長男の菊男さんと、待望の男児を産んだわけですね」
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