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なぁ、と秋人が前のめりになった。
「もしかしたら、義春氏には愛人がいたのかもしれないぞ」
うん? と清貴は、秋人の方を向く。
「つまりだ」
秋人は、すっくと立ち上がる。
「義春氏は愛人と駆け落ちを予定していた。いざ、決行したものの愛人は華子夫人を敵に回すのが怖くなって、『ごめんなさい、アタシ、義春さんにはついていけない。だって、あのおばさんが怖いんですもの』と拒否をした。
愛人との新生活にすべてを賭けていた義春氏は人生に絶望し、自殺を決意。
ひょんなことから夫の裏切りを知った華子夫人は、『義春が私を裏切るなんて、信じられない、私の言いなりだと思っていたのにっ!』と激昂しながらも、『気が付いてしまったわ。私は、義春を愛していたの。ああ、あなた』――という心境の変化があったんじゃないか?」
秋人はわざわざ身振り手振りに声色まで変えて、愛人と華子の役を演じながら話す。
清貴は感心したように、秋人を見た。
「秋人さんは、もしかしたら、本当に役者の才能があるかもしれませんね」
マジで? と秋人は目を輝かせる。
「ええ、なかなかの表現力でしたよ」
「……清貴君、そういう無責任なことを言うのはやめてくれないか」
と、冬樹は額に手を当てる。
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