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でも、と薔子が口を開く。
「ありえるかもしれません。父は失踪前、少しイキイキしていたんです」
「どんな感じに?」
「どんなと言われましても……」
薔子は、必死に記憶を探っているようだ。
「そうそう、明るい様子なので、『研究が上手くいってるの?』と訊いたことがあるんです。そうしたら父は『研究は相変わらずだけど、新たな楽しみを見つけたんだ』と言っていまして……私は、何か新しい趣味に出会ったのかもしれない、と思っていたのですが」
新たな楽しみ……と、清貴はつぶやいて、眉根を寄せる。
その時、窓の外から、わあわあ、と子どもたちが元気に遊び回る声が聞こえてきた。
「よーし、菊正君、こっちだ!」
若い男がボールを手に大きな声を上げていた。
初めて見る顔であり、清貴は外を眺めながら、目を凝らす。
「あの男性は?」
ああ、と薔子は微笑む。
「菊正の家庭教師の江田正樹さんです。やんちゃすぎる菊正を教えられる人がなかなかいなかったんですが、父が『良い人がいる』と彼を見付けてきまして」
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