第三幕 亡き当主の研究室

15/18

5432人が本棚に入れています
本棚に追加
/233ページ
「義春さんが……? どういうお知り合いだったんでしょうか?」 「江田先生は、京大の学生さんなんですが、文筆家――作家でもあるんですよ。父は江田先生の作品を好んでいたそうです。彼は、子どもの扱いが上手だし、百合子姉さんにもとても親切で、菊男も正子さんも母も気に入っているんです」  へぇ、と清貴は目を光らせた。 「もしかして、お父様が元気になったのは、あの家庭教師が来た後からですか?」  その問いに薔子は少し考えてから、「そうかもしれません」と頷く。 「すげーな、どうして分かるんだ」 「心境の変化というものは、これまでとは違う何かがあって起こることが多い。義春さんにとって、彼は何かキッカケを与えた存在なのかもしれません。ぜひ、彼のことを知りたいですね」 「では、お呼びしましょうか?」  薔子が腰を上げようとすると、清貴は、いえ、と手をかざす。 「その前に江田正樹という人物について知っておきたい。秋人さん、小松さんに連絡をして、彼のことを調べてもらうよう伝えてください」 「よっしゃ分かった。すみません、薔子さん、電話借りますね」  秋人は、勢いよく応接室を出て行く。  小松というのは、正真正銘の探偵だ。  調査能力が高く、清貴は調べ物をする際、彼に依頼をしている。 「事前に彼の情報を入手してから、お話を伺いたいと思います」  清貴はそう言って、意味深に口角を上げた。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5432人が本棚に入れています
本棚に追加