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そうです、とホームズさんは頷いて、店のショーウィンドウに目を向けた。
「これまで季節ごとにしか変えていなかったショーウィンドウのディスプレイですが、葵さんは月ごとに変えてくださって、そこに素人でも分かりやすい説明文をつけてくれています。天気の良い日は、扉を開けておいて、入口付近に価格の安い、可愛らしいものを置くようにしましたよね? そうすると通行人もふらっと入りやすくなる」
彼の言う通り、それらは私が変えたところだ。
「新しい風が入ってくるのは、素晴らしいことです。とてもありがたく思っていますよ」
私は、はにかんで肩をすくめる。
「元々私はこの店が気になりつつ、なかなか入れずにいた通行人の一人ですから、『こうしたら、入りやすいんじゃないかな』って思うことを、実践してみただけでして……」
ここは、入口は小さいけれど、店内は奥まっている。
明治・大正時代を思わせるようなレトロな雰囲気の店内には、和洋折衷の骨董品が所狭しと並んでいる。
今となっては、馴染んだ光景だけど、最初は外から眺めることしかできなかったのだ。
「『外側の目線』は大事ですよね。中の人間になってしまうと、何もかも当たり前になってしまうものです。『慣れすぎるとカーペットの染みすら模様に見えてきてしまう。いつでも新鮮な目線を忘れてはならない』。これは、ある一流ホテルの支配人の言葉ですが、まさにそうだと思います。そもそも、この店に慣れすぎた僕には、『入りにくい』という気持ちがよく分からないので」
ホームズさんはそう言って、店内を見回す。
そうでしょうね、と私は小さく笑って、掃除を続ける。
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