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花屋敷家に戻ると、家庭教師の江田正樹と菊正、菊次郎の三人は、広い庭で追いかけっこをしているところだった。
江田は、菊正の背中をタッチして、いたずらっぽく微笑む。
「ほら、これでおしまいだ、僕の勝ちだね。それじゃあ、菊正君は問題集をやろう」
菊正は、ちぇっと口を尖らせながらも庭のガゼボに入って、椅子に腰を下ろしている。
その様子を、母親の正子が少し離れたところから微笑ましそうに眺めていた。
清貴と秋人は、そんな彼女の許へと歩み寄る。
「正子さん」
清貴が会釈をすると、正子は、あら、と振り返った。
「こんにちは、家頭さん」
清貴は、こんにちは、と返して、ガゼボに顔を向ける。
「菊正君と江田先生の相性は良いようですね」
そうなんです、と正子は嬉しそうに目を細める。
「こんなに家庭教師の先生に打ち解けるなんて、江田先生が初めてです」
「彼は、子どもの扱いが上手なんですね?」
「ええ、とても。菊正は体力を持て余している子なんですが、江田先生はいつも、すぐに勉強に取り掛からず、まず遊びを兼ねた運動をさせて、発散させてくれるんですよ。今日も、かくれんぼ、鬼ごっこをしてから、菊正に勉強を……」
正子はそう言った後、そうそう、と思い出したように清貴を見た。
「薔子さんに伺いましたよ。家頭さんは、江田先生のお話を聞きたいとか……?」
ええ、と清貴は答えて、正子を見た。
「なんでも、江田先生を紹介したのは、義春さんだったとか」
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