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「あの、すみません」
清貴は駆け寄って、使用人を呼び止める。
彼女は、なんでしょうか、と足を止めて、会釈をした。
「最近、不自然に汚れた服を洗濯した覚えはありませんか?」
犯人の服には、天花粉が付いている。
それを隠すために、他のもので汚している可能性は大いにあった。
使用人は少し考え、いいえ、と首を振る。
「洗濯物に、特に変わったことはなかったです」
「そりゃそーだろ、ホームズ。犯人は靴を裏の林に捨ててるんだ。服だって洗濯したりせず、どっかに捨ててるんじゃねぇ?」
と、秋人があっけらかんと言う。
「僕も最初はそう思ったんですが、靴が発見されたのに服は見付かっていないので、もしやと思いまして……」
そんな話をしていると、ガゼボの方から家庭教師の江田正樹がやってきた。
「あの家庭教師、なんか、うちの弟の春彦に似てるなぁ」
そう洩らした秋人に、清貴は「たしかに、似た感じですね」と同意した。
江田正樹は、柔らかく優しげな雰囲気を持っている。
誰しもに親切だという話も納得できる好青年だ。
「こんにちは」
彼は会釈をしながら、清貴を前に戸惑った様子を見せている。
「僕の話を聞きたいそうですが、何か……?」
自分が疑われているのではないだろうか、と心配しているのか、顔が強張っていた。
「こんにちは、江田先生。実は亡くなった義春さんのことで、お話を伺いたかったんです」
「義春さんの?」
義春と聞いて、江田は安堵の声を上げる。
清貴は、ええ、と頷いて、にっこりと微笑んだ。
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