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清貴と秋人は、江田正樹と応接室で話すことにした。
そこに冬樹の姿はなかった。彼は他の警察官とともに庭の調査をしている。
「一年前のことですね。僕は瀟洒な洋館が好きで、この花屋敷邸を何度も見に来ていたんです。そうしたら、義春さんに不審者だと思われたのか、『うちに何か用ですか』と声を掛けられまして……」
たった一年前の話なのだが、江田はずいぶん昔のことを語るかのように、懐かしそうに目を細める。
「そうしたら、義春さんは、作家であるあなたのことを知っていたんですね」
「はい。作品の話をするうちに親しくなりました。僕がアルバイトで家庭教師をやっていることを伝えたら、『うちの孫を見てほしい』と……」
そうでしたか、と清貴は相槌をうつ。
「ところで、あなたは本当に、この家の建物を見るのが目的だったのでしょうか?」
そう問うた清貴に、江田は顔をしかめる。
「どういうことですか?」
「この家には、美しい女性がたくさんいます」
そう続けると、江田の表情が和らいだ。
「あー、まぁ、そういう下心もなくはなかったですかね」
内緒でお願いしますよ、と江田は人差し指を立てる。
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