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すると秋人が、おっ、と目を輝かせて身を乗り出した。
「お目当ては誰なんすか? 薔子さん? 蘭子さん?」
いやいや、と江田は気恥ずかしそうに頭に手を当てている。
「――百合子さん、ですよね」
清貴の言葉に、江田は動きを止めた。
「あなたが見ていたのは、屋敷ではなく、庭で日光浴をしている百合子さんの姿だったのでしょう?」
秋人は、あー、と大きく首を縦に振る。
「そういや百合子さんも外に出るんだよな。たしかに彼女もすごく綺麗な人だ」
「あ、まぁ、百合子さんも美しいですが、彼女にそうした想いは……」
江田はそこまで言って言葉を濁す。
「そうですね。彼女は、あなたの『お姉さん』ですからね」
微笑みながら言った清貴に、江田は、えっ、と訊き返した。
「え、ええと、何を突然……」
あはは、と江田は顔を引きつらせながら笑う。
「今回の事件の真相を突き止めるために必要だと判断したので、失礼ながらあなたのことを調べさせてもらったんです。江田先生――いえ、佐伯正樹さん。あなたのお父様は華子夫人の前夫、佐伯正孝だった。つまり、あなたは百合子さんの異母弟」
江田は、虚を突かれたように目を見開いた。
沈黙が訪れる中、江田がごくりと喉を鳴らす。
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