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「いつしか僕は京都に住みたいと思うようになり、京大を目指しました。無事、入学もできました。僕は遠くからでも姉を見てみたいと屋敷に通うようになりました。百合子さんはその名の通り、百合のように清楚で美しい女性でした。いつも穏やかに微笑んでいて、柔らかい雰囲気で、天使のような人だと思ったんです。姉なのに、恋に似た感情を抱きました。僕はそうした想いを抑えきれず、筆を取り、小説を書いたんです」
「それが入選したわけなのですね?」
はい、と江田は答える。
「ですが、百合子さんへの想いが消えるわけではありません。つい何度も屋敷に……」
「そうしているうちに、義春さんに見付かってしまった」
「そうです。その時、僕は誤魔化さずに、すべてを正直に伝えたんです。そうすることで、僕は拒絶されるだろうし、そうしたら本格的に諦めもつくだろうと」
「ですが、義春さんは、あなたを受け入れた」
こくり、と江田は頷いた。
「そういうことでしたか……」
清貴は優しい口調で言うと、ところで、と顔を上げた。
「義春さんは、あなたに小説の書き方を教わっていたという話を伺ったのですが」
話題が変わったことで、江田は少しホッとしたように胸に手を当てる。
「ああ、はい。でも、僕自身はお役に立てなかったんです」
秋人が、へっ、と目を瞬かせる。
「え、どうしてっすか?」
「義春さんが書きたい小説と、僕が書いている小説ではジャンルが違うんです。ですので、上手にアドバイスができなくて……」
ジャンルって? と、秋人は首を傾げる。
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