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「義春さんが自殺したのは、それからすぐのことですか?」
「……そうですね。実は義春さんが亡くなる少し前に、四国にいる僕の父が亡くなったんです。それで僕はしばらく実家に帰っていたんですよ。義春さんは、『大変だったね』と、わざわざ実家に電話をくれたんです。これは、後から分かったんですが、その電話は、自殺の直前、神戸の旅館からかけてきてくれていたんです」
「そうだったのですか……」
清貴は神妙な顔で、相槌をうつ。
「今回の事件ですが、あなたにとってとても大切な百合子さんの命が狙われたわけですよね? どう思われましたか?」
「それはもちろん、憤りしかないですよ。でも……」
そこまで言って江田は、表情を曇らせる。
「何か思うことがあるんですか?」
「犯人は、本当に百合子さんを殺すつもりだったのだろうか? と疑問に思うんですよ」
清貴は思わず前のめりになった。
「なぜ、そう思われるんですか?」
「僕は毒物にそれほど詳しくないのですが、おそらく無味無臭ではないと思うんですよ。百合子さんは目と耳が不自由な分、他の感覚がとても鋭いです。もしミルクティーに毒物を入れられていたら、鼻を近付けただけで飲まないと思いますし、はたまた毒を注入された梨なんて、触っただけで『腐っている』と判断して、口に入れたりはしないと思うんです」
そう言った江田に、清貴は大きく目を見開いた。
「ほんまや……」
清貴は感情が高ぶると、京都弁になる。顔色を失くして、口に手を当てていた。
「分かった。すべては、カムフラージュやったんや」
「どういうことだよ、ホームズ」
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