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「今回の事件は、『百合子さんを狙っている』と見せかけて、実は華子夫人を狙ったものだったんです」
そう、犯人の真の目的は、華子の殺害。
毒入りの梨は、隠れ蓑にすぎなかったのだ。
犯人の思惑にようやく気付いた清貴は、ちっ、と舌打ちした。
「ったく、僕はどんだけアホやねん」
清貴は吐き捨てるように言って頭を抱える。
その横で秋人が顔を引きつらせながら、まあまあ、となだめた。
「ホームズ、そんなに落ち込むなよ。だってそれは百合子さんをよく知らないと、気付かないことだろうしよ」
江田も、そうですよ、と続ける。
二人の慰めも、清貴には届かないようで浮かない表情のままだ。
「ええ。犯人は、間違いなくこの家のことを知り尽くしている者です。僕が分からへんのは、周到で綿密な計画と見せかけて、時にそうではない。それもすべて計算のうちなのか……あれもこれも分からへん」
清貴は黙り込み、少しの沈黙が訪れる。
秋人は、うん? と顔をしかめ、
「なぁ、変な臭いがしねぇ?」
くん、と鼻を鳴らした。
「臭い……? たしかに焦げ臭いような」
――その時、
「大変だ、研究室が火事だ!」
菊男の声が、廊下に響いた。
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