5431人が本棚に入れています
本棚に追加
/233ページ
清貴は立ち上がり、応接室の扉を開ける。二階から、白い煙が流れてきていた。
秋人と江田も立ち上がり、勢いよく応接室を出た。
菊男、薔子、蘭子が悲鳴を上げて二階から駆け降りてくる姿が見える。彼らとは入れ違いでコックや使用人、庭師たちが一斉に、消火器やホースを持って二階へと駆け上がっていく。
「皆さん、研究室にはさまざまな薬品があり、爆発する可能性があります! どうか外に逃げてください! それよりも消防を!」
清貴が声を張り上げたが、皆は消火に懸命で聞こえないようだ。
「研究室……大変だ、百合子さんがっ!」
江田は真っ青になって、躊躇もせずに階段を駆け上がっていく。百合子の部屋まで行き、彼女がいなかったことで気付いたのだろう。ややあって、「そうだ、百合子さんはこの時間、食堂だった」と駆け足で下りてきた。
そう、今は午後三時。百合子はティータイムで、一階の食堂にいた。
彼女は、煙の臭いに戸惑ったような顔を見せている。
「百合子さん、ああ、良かった。外に出ましょう」
江田はすぐに百合子を抱えて、屋敷の外に出た。
玄関ホールでは、正子が「どうしましょう」とオロオロしている。
「ああ、正子さん、すぐに消防に連絡を!」
「は、はい」
庭に警察官がいたのが、不幸中の幸いだった。
外にいた冬樹は、二階の窓から不審な煙が出ているのにいち早く気付き、消防に連絡をしていたのだ。
ほどなくして消防自動車は、かん高い音を立て敷地内に入り、消防士たちが手際よく消火活動にあたった。
火は三十分ほどで消し止められ、薬品が爆発することもなく、怪我人も出ずに済んだ。
最初のコメントを投稿しよう!