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棚の最上段に、チューブタイプの軟膏薬が残っていたのだ。
それは、指の跡がついていた段のすぐ上だった。よく見ると、皮膚炎の薬だ。
先日ここを見た時にもあったが、毒薬ではなかったので気に留めていなかった。
「そういえば、正子さんが言っていましたね。義春さんはストレスが溜まると、湿疹が出てしまう体質だったと……」
清貴は手袋をはめたままの手で、それを取り、蓋を開ける。
ふんわりと甘い香りがした。
「――これでしたか……」
と、清貴は息を吐き出すように言う。
「え、なんだよ?」
秋人は首を伸ばして、軟膏薬に鼻を近付けた。
「バニラの香り……だよな?」
「ええ。これは、義春さんが使用していた皮膚の薬です」
秋人は、なんだそれ、と両手で頭を抱え、隣で冬樹も乾いた笑いを浮かべている。
「もし、義春氏が生きていたら、間違いなく最有力容疑者だな」
「同感ですね」
清貴が頷いたとき、
「――お父様よ」
と、扉の方で怯えたような女性の声がした。
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