第一章 それぞれの歩みと心の裏側

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 まず、マグカップの土台を作る。  粘土を丸く平べったくしたものを、台の上に載せるのだ。  その上に型紙を置き、型紙に沿って錐の先端を挿し、ゆっくりろくろを回して綺麗な円形にする。  底ができたら、粘土を蛇のようなひも状にした『土ひも』を載せていく。  接着面を傷つけて、水で濡らし、さらに二段、三段と載せる。  ヘラでコップの内側を綺麗にして、外側も下から上に滑らかにしていく。  そして、口元を整えるのだけど――。 『あー、やっぱり上手くいかない』  思うようにいかず、私は粘土を前に、うな垂れる。 『十分、ええできやん。なんや、ハードル上げてるんとちゃう?』  すでに湯呑みを成形している香織は、私の方を見て言う。  香織の言葉は、的を射ていた。  初めて陶芸に挑戦する身でありながら、理想ばかり高くなって、肩に力が入り過ぎているのだろう。 『部長のお手本を見ると、簡単そうに感じるんだけどなぁ』 『そら、あの先輩は、家が窯元やし』  そんな話をしていると、教室内を見回していた男子学生が、笑顔で歩み寄ってきた。 『二人とも、どうかしたかな?』  彼――梶原春彦は、にこりと微笑んで訊ねた。  春彦さんは、私やホームズさんと馴染みの、梶原秋人さんの弟だ。  彼は陶芸サークルの一員だった。このサークルを立ち上げた部長と仲良くしているそうで、私たちに声をかけてくれたのだ。
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