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「まず、事件について整理をしたいと思います。二か月前、この家の当主・花屋敷義春氏が、大阪港で水死体で発見されましたね」
そこまで言って一度、言葉を区切る清貴に、薔子は恐ろしげに瞳を泳がせて訊ねた。
「もしかして、その水死体は別人で、お父様は生きていた?」
そういうことか、と菊男と蘭子も目を見開く。
「犯人は、父さんだったのか!」
「この屋敷のどこかに隠れているのかしら?」
どこからか義春が姿を現わすのでは、と皆は周囲を見回す。
こほん、と清貴は咳払いをする。
皆は口を噤んで、清貴を見た。
「あの水死体は、義春さんで間違いないでしょう。彼は亡くなっています」
その言葉に皆は、安堵とも落胆ともつかない表情を浮かべる。
「ですが、義春さんが犯人だというのは、あながち間違いではありません」
「それは、どういうことだ?」
と、菊男が顔をしかめる。
「その説明の前に話を戻しましょう。義春さんが失踪後、華子夫人は夫――義春さんの研究室に鍵をかけて、誰も入れないようにしました。その鍵はたったひとつしかなく、華子夫人がいつも腰ベルトにつけていた。従って研究室は、誰も入れない状態でした。研究室が開かれたのは、義春さんの遺体が発見されて、警察が中を確認した時のみだったと。その後、研究室は再び開かずの間になりました」
そうでしたね? と確認する清貴に、皆は無言で頷く。
「それから二か月後、この食堂で百合子さんのミルクティーに毒が入れられました。種類は、ストリキニーネの錠剤です。それは菊正君が一口飲んだことで発覚しました」
話を聞きながら菊正は、うんうん、と相槌をうっている。
その時の苦い思い出が蘇ったのか、表情は険しい。
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