第五幕 そしてすべてが明らかに

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「第二の事件はそれから一週間後。犯人は菊男さんのズック靴を履き、注射器を持って、華子夫人と百合子さんの寝室に侵入しました。犯人は注射器を使って、梨に毒薬を注入。その時、華子夫人は朝風呂に入っていて、浴室から出てきたところを犯人と鉢合わせしてしまう。犯人はバイオリンで華子夫人の頭を強打。その衝撃で、華子夫人が手にしていた天花粉が床に散乱し、犯人の靴にもつきました。ちなみに凶器として使用されたバイオリンは、一階応接室のものです」  清貴はそこまで言って、ふう、と息を吐き出す。 「この寝室での事件では、眠っていた百合子さんでしたが、気配を感じて目を覚ましたことで、犯人に接触しています。犯人の顔に手を触れた百合子さんの証言によると、犯人の頬は『すべすべした美しい肌をしていた』と。また犯人から『バニラの匂いがした』と」  その時のやり取りをよく覚えてる薔子と蘭子は、強く相槌をうっている。 「不幸中の幸いで、華子夫人は一命を取り留めました。医師の話では、まだ意識は戻っていないものの回復に向かっているそうです」  その言葉に、薔子と蘭子は嬉しそうに表情を和らげたが、他の者は苦笑していた。  華子の意識が戻らない方が、花屋敷家は平和だと思っているのだろう。 「華子夫人が病院に運ばれたことで、研究室の鍵が手に入りました。早速、調査したところ、ミルクティーに混入されたストリキニーネも梨に注入された塩化第二水銀も、研究室から盗み出されたものだということが分かりました」  皆は無言で顔をしかめている。  犯人は、男物の靴を履き、すべすべした肌を持ち、バニラの匂いをさせている。  何よりどうやって、研究室に入ったのか。  皆のそんな困惑に応えるように、清貴は口を開く。 「研究室への侵入方法は、意外なほどに簡単なものでした。僕は、すぐに気付かなかった自分を責めたくらいです」 「どういうことですか? どうやって中に?」  と菊男が堪えきれないように問うた。  薔子と蘭子も解せないように顔をしかめている。
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