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清貴は見ていない振りをして、最初からその人物を注視していた。自分が疑われるわけがない、と確信していたその顔がみるみると変わっていく様子を――。
江田は変化に気付いて、きょとんとした顔をその人物に向ける。
「……菊正君、震えているけど、どうしたんだい?」
その言葉が引き金となり、菊正は弾かれるように立ち上がって、冬樹の腕をつかんだ。
「早く、僕にその薬を!」
「――っ⁉」
一同は絶句し、清貴はそっと目を伏せる。
腕をつかまれた冬樹は顔を歪ませた。
「本当に、なんて恐ろしいガキだ! 実の祖母を殺害しようとして、その上、百合子さんを――やらなくてもよい殺人までしようとするなんて!」
「あのクソババアも、伯母さんもこの家のお荷物なんだよ! だから僕がやっつけてやることにしたんだ! 僕は正しいんだ!」
「救いようがない! お前はこのまま、自分が入れた毒で死んだ方がいい!」
冬樹はそう叫んで小瓶の蓋を開けて、中の液体を床に零した。
うわあああ、と菊正は泣き叫びながら、床に這いつくばって液体を舐める。
父親の菊男は呆然とし、母親の正子は、ごめんなさい、と泣きながら菊正に寄り添う。
「全部、私が悪いんです! 私がいつも子どもたちにお義母様のことを悪く言っていたから、菊正は!」
「それを言うなら俺だ! 俺が百合子姉さんさえいなければ、と菊正の前で言っていたから。お願いです、息子を助けてください!」
菊男も、菊正に寄り添い、冬樹に懇願する。
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