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「お父さん、お母さん、頭がぼんやりしてきたよ、僕、このまま死んじゃうの?」
「菊正、菊正」
「やだよ、死にたくない」
「菊正、ちゃんと謝りなさい!」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「命乞いの口だけの謝罪なんて、何になる!」
と、冬樹が叫ぶ。
見ていられないと、秋人が前のめりになった。
「ちょ、兄貴、早くしないと」
だが清貴はそんな秋人の手をつかんで制した。
菊正は涙と鼻水を流しながら、口を開いた。
「ぼ、僕はおばあちゃんと百合子伯母さんが死んだら、お父さんとお母さんが喜んでくれるかと思っていたんだ。もうお父さんもお母さんも喧嘩しなくなるって」
「ああ、菊正……っ」
「悪かった、菊正」
「お父さん、お母さん……ごめんなさい、僕は……もう死んじゃうみたいだ」
そのまま菊正は床に崩れ落ち、目を閉じた。
菊正ぁ、という菊男と正子の絶叫が響く。
「ひ、酷いですよ、冬樹さん」
「殺人じゃないの?」
「そうよ、それでも警察官なの⁉」
江田と蘭子と薔子が立ち上がって抗議した。
冬樹の顔面は、蒼白となっている。
清貴は、ぱんっ、と手をうった。
皆は我に返ったように清貴の方を向く。
「――ご安心を。菊正君が飲んだのは、本当はただの睡眠薬です。数時間後には目覚めますよ」
えっ、と皆は、床に倒れている菊正に視線を移した。
彼は頬に涙の痕を残したまま、すーすーと寝息を立てている。
「……睡眠薬?」
冬樹も拍子抜けしたように洩らす。
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