第五幕 そしてすべてが明らかに

13/21

5433人が本棚に入れています
本棚に追加
/233ページ
「……何より僕を困惑させたのは、『なぜ、凶器がバイオリンだったか』です。花屋敷家にしか分からない特別な意味があるのかと、随分調べて考えましたが、これも驚くほどに単純なことでした。ここにこう書いてあるのですが――」  清貴は、概要に目を落とす。 『■真の犯行  華子の殺害。寝室に侵入して、鈍器でなぐって殺す』  皆は、それがどうかしたのか、という顔をしている。 「『鈍器でなぐって殺す』……ここだけは随分と感情が籠っていますね。さてこの一文。皆さんは、何も疑問に思わないでしょうが、まだ幼く、さらに勉強が苦手な菊正君には、『鈍器』がなんのことを指しているか分からなかったんです。  そして自分が犯人だと疑われたくなかったので人にも訊けなかった。考えた結果、菊正君は大人ではありえない解釈をして、殺害計画を実行に移しました」  苦笑する清貴に、秋人が、そうか、と手をうつ。 「『鈍器』を『楽器』と解釈したわけだな」 「そういうことですね。菊正君が気軽に手に取れて、なおかつ武器になりそうな楽器は、応接室のバイオリンでした。そのため彼は、注射器とバイオリンを持って寝室に侵入するという、無謀かつ滑稽なことをやってのけたのです」  皆は何も言えず、額に手を当てている。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5433人が本棚に入れています
本棚に追加