第一章 それぞれの歩みと心の裏側

9/40
前へ
/233ページ
次へ
 ふと目に入った春彦さんのスマホの待ち受け画面に、私は目を瞬かせた。  ご当地レンジャーの姿をしている秋人さんだった。 『春彦さんの待ち受け、秋人さんなんですね?』  そう問うと、春彦さんはほんのり頬を赤らめる。 『あー、うん。兄を応援してるのと、あと、弟だけどファンでもあって』 『実の弟さんに、ファンって言ってもらえるなんて、秋人さんも嬉しいでしょうね』  私はふふっと笑って、少し得意になっている秋人さんの顔を思い浮かべた。 『あと、実は僕、子どもの頃からレンジャーとかライダーが大好きでね。この齢になっても、舞台を観に行くくらい好きだから、兄がレンジャーをやってくれて本当に嬉しくて』  春彦さんは照れくささを誤魔化すように、あはは、と笑う。  私が、へぇ、と洩らしている横で、香織の肩がぴくりと動いた。 『仮面ライダー……、特に好きなのはなんですか?』  俯いたままぽつりと訊ねた香織に、春彦さんは、うーん、と唸って腕を組む。 『555やWも好きだけど、電王かなぁ……』  その言葉に、香織は何かに弾かれたように顔を上げた。 『う、うちも、電王が一番で! あと、カブト!』  あー、と春彦さんが手を叩く。 『電王もカブトも、ライダーがめっちゃカッコいいよね。あと、フォーゼ』 『フォーゼっ!』  ライダーについてまったく詳しくない私は二人の様子に圧倒されながら、ろくろを前に作業を再開する。  熱く語る二人の様子はとても愉しげで、見ているだけで癒される。  私は微笑ましい気持ちで、粘土に手を伸ばした。  二人の会話を聞きながらの作業は、余計な雑念が入らず、思いのほか没頭できて、我ながら『まあまあ』な仕上がりになった。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5441人が本棚に入れています
本棚に追加