第五幕 そしてすべてが明らかに

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「おそらく義春さんも江田先生からの話を聞いて、すべてを察したのでしょう。華子夫人の情緒が不安定な理由、男性に対してだけ暴力的なところ、自分がないがしろにされていたわけも。きっと、愕然としたと思います。長く連れ添っていながら妻のことを何ひとつ分かっていなかったのですから」  そう話す清貴に、皆は苦々しい表情で相槌をうつ。 「それまで、復讐しようと意気込んでいた義春さんでしたが、哀しい華子夫人の過去と真相を知り、そんな気もなくなってしまいました。同時に、復讐を人生の支えとしていたため、生きる気力も失ってしまったのかもしれません」 「それで、お父様は命を……」  薔子と蘭子は目に涙を浮かべ、菊男は俯いて、頭を抱えている。 「これは、僕の想像でしかないのですが、もしかしたら義春さんは死ぬ間際、華子夫人に電話をかけたかもしれませんね。 その時に『君の秘密を知ってしまった。これまで気付かなくてすまない』といったことを伝えた可能性がある。ですが、実の父の子を産んだという残酷な事実は、華子夫人にとっては誰にも知られたくないことだった。それで彼女は、夫の研究室に自分の秘密を記した何かがあっては大変だと、封鎖したのではと……」  シン、として静けさが襲った。 「僕の仕事はここまでです。後は、ご家族で話し合っていただけたらと――」  清貴は胸に手を当てて、一礼をする。  皆は俯いたままであり、誰も反応することができずにいた。  清貴はそれもすべて承知の上で、もう一度、礼をして、食堂を出る。  秋人もぺこりと頭を下げて、清貴の後に続いた。
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