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『できあがったものは、前に持ってきてください。名前を書いた紙も忘れずに』
と、部長が声を上げた。
成形した作品は、ここで一週間ほど乾かしたのち、部長が回収して持ち帰って、家の窯で焼成してくれるのだ。
素焼きしたものに絵や色をつけて、釉薬をかけて、本焼成をする。
そうして完成したマグカップは、素人作品だが、綺麗な色も出て、初めてにしては上出来だった。
だが、ホームズさんにプレゼントできるような代物ではない。
マグカップの写真をホームズさんに送って、『私の初作品です。上手くできたらホームズさんに贈りたいと思っていましたが、見ての通りの出来なので、自分で愛用しようと思ってます』とメッセージで伝えたところ、なんとしてもそのマグカップが欲しい、とホームズさんに懇願された。
『いえいえ、お渡しできるようなものでは……』
と、一度は断ったのだが、ホームズさんは一歩も引かず、私は根負けしてマグカップを彼に渡したというわけだ。
*
「……ホームズさんが、そのマグカップを使うたびに、私は申し訳ない気持ちになります」
私は給湯室に入って手を洗い、コーヒーをドリップしているホームズさんに視線を送る。
彼は、何をおっしゃいますか、と微笑んでマグカップにコーヒーを注いだ。
「僕にとっては、人間国宝が作ったマグカップよりも価値があるものですよ」
なぜ、そんな言葉が出てきたかというと、ちょうど人間国宝のマグカップを前にしていたからだろう。
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