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それまで黙っていた清貴は、少し申し訳なさそうに目を伏せた。
「冬樹さん。僕も謝らなくてはなりません」
「えっ?」
「僕はあなたが、あのような行動に出ると予測を立てて、あなたに解毒剤を渡す役をやってもらったんです」
清貴の言葉に、冬樹と秋人は絶句した。
どうして? と二人は声に出さずに、口をぱくぱくと動かしている。
「理由は二つ。一つは、菊正君に死の恐怖を味わってもらい、自分の犯した罪を少しでも反省してほしかった。もう一つは冬樹さん、あなたにもご自分を省みてほしかったんです」
冬樹は大きく目を見開く。
「あなたは、百合子さんのことを話す時、彼女をよく知らずに『可哀相な人だ』と決めつけました。あなたは頭が良い分、自己判断で物事を決めつけてしまうところがある。それだけならまだしも、裁いてしまうとなれば問題です。あなたは警察官であって、裁判官ではない。あなたはさらに出世をしていくでしょう。その前に一度ご自分を省みてほしい。勝手ながら、そう思ったわけです」
清貴は胸に手を当ててそう言う。
「それじゃあ、清貴君は、こんな俺が、警察官を続けても良いと?」
良いも何も、と清貴は苦笑する。
「そもそも何も起こっていませんし、僕自身、人を裁けるような人間ではありませんよ。ですが、もしご自身の胸が痛むというのでしたら、この経験を糧により良い警察官になってほしい。僕は一市民として心から願います」
そう言ってにこりと微笑んだ清貴に、冬樹は肩を小刻みに震わせ、ありがとう……、と消え入りそうな声でつぶやいた。
冬樹は感激に肩を震わせ、清貴は慈悲深い笑みを浮かべている。
隣でその様子を見ていた秋人は、やっぱりホームズは悪魔だな、と肩をすくめた。
そう、清貴は、これで冬樹を完全に手駒にしたのだ。
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