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冬樹が書斎を出た後、秋人は「なあなあ」と興奮気味に身を乗り出す。
「兄貴が『清貴君と食事に行くといい』って小遣いをくれたんだよ。なんか美味いもの食いに行こうぜ!」
秋人は懐から財布を出して、ニッと白い歯を見せる。
「それはいいですね。どこに行きましょうか」
「大丸! 俺は大丸の食堂がいい。今度はライスカレー、食いてぇ」
「いいですね。では、僕はコロッケを食べようと思います」
「お前、コロッケ好きだな」
「プリンも食べたいですね」
「最高だな」
清貴はインバネス・コートを手に取って、ふわりと羽織る。
「それ着ると、また事件の話が来そうだな」
「縁起でもないことを言わないでください」
「冗談だよ」
秋人は笑いながら、清貴とともに書斎を出た。
だが、二人の嫌な予感は的中し、食堂にたどり着く前に、新たな事件に遭遇してしまうのだが、それはまた別の話。
これは少し昔――昭和初期の京都で、『ホームズ』と異名を取る美しい青年が、探偵として活躍する、事件譚である。
了
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