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「ただ、エラリー・クイーンを読んだことがなくて……」
「葵さんは、海外の名作ミステリーを読んでおられるのに、エラリー・クイーンを未読というのは意外ですね」
私は苦笑して、肩をすくめる。
「以前、読もうとしたんですが、作中の探偵が著者の『エラリー・クイーン』だったので、『この人、自分を主役にしているんだ』と思ったら、入り込めなくてやめたんです。著者が助役で作品に登場するのは楽しいんですが、主役、しかもヒーロー役になっているのは、ちょっと抵抗を感じまして……」
言いにくさを感じながら正直な感想を伝えると、ホームズさんと相笠先生は顔を見合わせた後、ぷっ、と噴き出した。
「可笑しいですか?」
いえいえ、とホームズさんは笑う。
「お気持ちはなんとなく分かりますよ。ですが、エラリー・クイーンの場合は、少し違うんです。著者は、二人組なんですよ。二人でエラリー・クイーンなんです」
えっ、と私は目を瞬かせる。
「それって、かつての岡嶋二人先生のような?」
「ああ、岡嶋二人先生の作品も最高でしたね。お二人が解散してしまったのが残念です。できれば企画で良いので、もう一度、書いていただけたらと願っているんですが……」
――それはさておきまして、とホームズさんは続ける。
「エラリー・クイーンは、フレデリック・ダネイとマンフレッド・ベニントン・リーという男性の二人組です。この名も筆名のようですが」
そうなの、と相笠先生が頷く。
「天才的なアイデアを持つけれど、文章を書くのが苦手なダネイがプロットとトリックを担当して、文章を書くことに長けたリーが執筆をしたそうよ」
それはかつての相笠先生が、友人たちと取っていた手法と似ている。
相笠先生は、元々文章を書くのは好きだけれど、キャラクターとトリックが弱かったのだ。キャラクターは、実在の人物をモデルにすることで、クリアしたようだ。
そして、トリックは――。
そういえば相笠先生は、最初にオマージュでありパスティーシュだと言っていた。
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