原稿を読み終えて

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「この作品は、エラリー・クイーンの作品が基となっているんですか?」 「そうなの。この作品、『華麗なる一族の悲劇』は、エラリーの傑作『Yの悲劇』という作品が基になっていて、葵さんが褒めてくれたトリック部分は、エラリー巨匠のものなのよね」  相笠先生は、はにかんでカップを手にした。 「それにしても驚いたのは、ページ数ですね」  しみじというホームズさんに、「ページ数?」と私は小首を傾げる。 「『Yの悲劇』は文庫で四百ページを超す大作なんですよ。この作品は、原作の半分くらいまで減ってませんか?」  ホームズさんは、原稿の紙の束を手に取りながら、しみじみと言う。  そうなんです、と相笠先生は頷いた。 「原作は、心理描写と情景描写が緻密に書き込まれているでしょう? そこが素晴らしいんだけど、テンポを考えて私なりに削ったのよ」  ふむ、とホームズさんは原稿を確認しながら、顎に手を当てる。 「花屋敷家の事情、当主の自殺の動機などは、オリジナルでしたね」 「は、はい」  相笠先生は、まるで作品を出版社に原稿を持ち込んだ新人作家のように、体を強張らせて頷いていた。 「ちょっとボリュームが少なくなっていて原作ファンとしては寂しい気もするのですが、舞台を昭和初期の京都にしたのは、なかなか興味深かったですね」  そう言ったホームズさんに、私も「ええ」と相槌をうった。 「昭和初期の京都のレトロモダンな雰囲気が素敵でした。インバネス・コートのホームズさんと、書生スタイルの秋人さんの姿が目に浮かぶようです」  良かった、と彼女は救われたように顔を上げる。
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