5435人が本棚に入れています
本棚に追加
/233ページ
「ですが、どうして『昭和初期』に? 明治や大正でも良かったのではないですか?」
「私もそれは悩んだんだけど、シャーロック・ホームズが日本に浸透していて江戸川乱歩がいてほしいから、昭和初期にしたのよ」
ああ、とホームズさんは納得した様子を見せる。
「そういうことでしたか」
そうなの、と相笠先生は、カップを口に運ぶ。
「ですが、せっかく昭和初期なのに、ずっと屋敷の中ですね。小物に昭和初期感を出してもらっても良いかもしれません」
「たしかにそうね。せっかくだから、ここで出してもらった香蘭社のカップ&ソーサーも作中で紹介しようかしら」
「ぜひ。当時の大丸の食堂が出てきたのは昭和初期的で、僕としては良かったと思います」
「ありがとう」
まるで編集者と作家のようなやりとりに、私の頬が緩む。
「ただ、ラストに出てきたデザート、『プリン』といえば、円生を思い出してしまいましたが……」
バームクーヘンにしてもらいたいですね、と彼は独り言のように洩らす。
「どうして、プリンで円生さんを?」
「彼はあんな風貌で、プリンが好物のようです」
へえ、と私も意外に思っていると、相笠先生が目を光らせた。
「『円生』というのは、たしかライバルなのよね? 続編を書ける機会があったら、ぜひ登場させたいわ」
出さなくていいですよ、とホームズさんは肩をすくめる。
私は小さく笑って、楽しみです、と微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!