原稿を読み終えて

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「ですが、どうして『昭和初期』に? 明治や大正でも良かったのではないですか?」 「私もそれは悩んだんだけど、シャーロック・ホームズが日本に浸透していて江戸川乱歩がいてほしいから、昭和初期にしたのよ」  ああ、とホームズさんは納得した様子を見せる。 「そういうことでしたか」  そうなの、と相笠先生は、カップを口に運ぶ。 「ですが、せっかく昭和初期なのに、ずっと屋敷の中ですね。小物に昭和初期感を出してもらっても良いかもしれません」 「たしかにそうね。せっかくだから、ここで出してもらった香蘭社のカップ&ソーサーも作中で紹介しようかしら」 「ぜひ。当時の大丸の食堂が出てきたのは昭和初期的で、僕としては良かったと思います」 「ありがとう」  まるで編集者と作家のようなやりとりに、私の頬が緩む。 「ただ、ラストに出てきたデザート、『プリン』といえば、円生を思い出してしまいましたが……」  バームクーヘンにしてもらいたいですね、と彼は独り言のように洩らす。 「どうして、プリンで円生さんを?」 「彼はあんな風貌で、プリンが好物のようです」  へえ、と私も意外に思っていると、相笠先生が目を光らせた。 「『円生』というのは、たしかライバルなのよね? 続編を書ける機会があったら、ぜひ登場させたいわ」  出さなくていいですよ、とホームズさんは肩をすくめる。  私は小さく笑って、楽しみです、と微笑んだ。
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