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「あかんっ」
と、勢いよく言って、口に手を当てた。
私と相笠先生は、ぎょっ、と目を剥く。
「ど、どうしました?」
「今、モガ・葵さんの姿を想像してしまったんです。あかん、めっちゃ可愛い」
「ええと、それ、想像よね?」と相笠先生。
「ええ、とてつもない可愛らしさで、その姿が頭に浮かんだ瞬間、『結婚っ!』と心の中で叫んでしまいました」
「ちょっ、ホームズさん」
気恥ずかしさに私は声を上げ、相笠先生はというと目をそらして、ぼそぼそとつぶやいている。
「やっぱり私としては、登場させたくないかも。探偵は常にスマートでカッコよくあってほしいし……」
ホームズさんは、そんな相笠先生の吐露をスルーして、満面の笑みを浮かべた。
「続編につながるよう、僕もできる限り協力いたしますね」
「……ありがとうございます」
「ああ、でも、この第一作にちっとも葵さんの名前が登場しないのは寂しいですし、ちらりと書いてみては? この時代ですから、許嫁役とか」
「か、考えておくわ」
「加筆したら、読ませてくださいね」
ホームズさんの笑顔の圧力を受けて、相笠先生は声もなく頷く。
それは、刊行前の原稿を読むという、稀有な経験ができた楽しいひと時だった。
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