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「……本当に素晴らしいです。見ていたら、涙が滲むくらい」
注目される絵画には、いくつかタイプがあるように思える。
技法に優れたもの、
技法は乏しくも力があるもの。
円生の絵は、その二つを兼ね備えている。
「ありがとうございました」
私が頭を下げると、彼は息をついた。
「礼なら、ホームズはんに言うたらええ」
「ホームズさんに?」
「あの男は、あんたのために俺に深々と頭を下げて、絵を描いてくれと懇願したんや。あんたやったら、それがどんだけのことか分かるやろ? 俺はあんたのために描いたんやない。あのプライドの高い男が、そこまでのことをした。それに応えたまでのことやし」
彼は素っ気なく言って、明後日の方向を見ている。
その話は、小松さんから聞いていた。
たしかにホームズさんが、この彼に頭を下げるなんて、想像もつかない。
おそらく、ホームズさんがもっともしたくないことだろう。
円生は、そんなホームズさんに敬意を払い、絵を描くことにした――。
良い関係だ、と思わず表情が緩む。
「なに笑てんねん」
ごめんなさい、と私は、はにかんだ。
「でも、やっぱり、ありがとうございます。私はこの絵に救われたんですから。後日改めて、ちゃんとしたお礼をさせてください」
「せやから、そんなんいらんし」
と、円生は肩をすくめる。
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