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「あんな素晴らしい作品を前に、たいしたお礼もできそうにないんですが……」
私は、中華古美術コーナーの壁に掛けられた『夜の豫園』に視線を移す。
円生は、どうにも居心地が悪そうだ。
「もしかして、褒められるのが苦手でした?」
円生は、いや、と首を捻る。
「そんなことはあらへんで。なんでや」
「褒められるのが苦手だから、展覧会の話を断ったのかと」
そう言うと円生は、首の後ろに手を当てた。
「そんなんとちゃうわ。前も言うたとおり、もう描くつもりがないからや」
微かに顔を歪ませた彼の表情を見て、私はそっと目を細める。
「あの、円生さん」
「なんや?」
「ちゃんとしたお礼とは別に、本当にささやかですが、贈りたいものがありまして」
「なんもいらんし」
「ええと、まずは、これを」
私はコーヒーと一緒に、冷蔵庫からプリンを出した。
「プリンを作ってみたんです。良かったら」
「……なんや、ホームズはんに訊いたん?」
「あ、はい。『好物のようです』って」
ちなみに作ったプリンは、事前にホームズさんにも食べてもらっていて、『とても美味しいです。これは、きっと円生も喜ぶでしょう』と言ってくれたのだけど――。
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