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「……知らない作品です」
「こちらは、イタリア人画家、ルーチョ・フォンタナの作品です。葵さんはこの作品に、いくらの値が付いたと思いますか?」
「いくらの……?」
そう問われて、私は目を凝らす。
紙にナイフで切れ目を入れただけの作品に値段なんて、と思うけれど、わざわざ訊いてくるのだから、高額だったのだろう。
「……一千万くらい、ですか?」
「一億四千万です」
ごほっ、と私はむせた。
「一億四千万?」
私は、美術本に顔を近づける。
「こちらは『Concetto spaziale(空間概念)』シリーズの一つで『Attese(期待)』という作品です。カンヴァスを切り裂くことで、新たな空間を創造し、異なる時空間を表現したそうです。こちらのように絵画を切り裂いて表現したのは、フォンタナが初めてだと思われていたんです」
「斬新だったんですね」
「ええ、ですが、これは当時の話で、近年になり日本の嶋本昭三という作家がフォンタナよりも先にカンヴァスを破った作品を制作していたことが分かったんです。『穴』という作品なんですが……」
そこまで言って、ホームズさんは話題を戻す。
「よく抽象画は、『価値が分からない』『子どもの落書きみたい』などと言われますが、実際、子どもの落書きと変わらなく見えるものもあります」
私は、はい、と頷く。
「では、子どもの落書きと何が違うかというと、子どもは思うがままに描いていますが、画家が描く抽象画は、まさに『抽象した作品』なのです」
言っていることは分からないでもないが、いまいちピンと来ない。
私は気が付くと、首を傾げていた。
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