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「ほんま、ムカつくし」
「もしかして、本当は好きではなかったんですか?」
私が問うと、円生は小さく息を吐く。
「好きていうか、なんや、特別やな」
「特別?」
「子どもの頃、ユキのために作ったんや。プリンて、牛乳と卵と砂糖と鍋で作れるやん。バニラエッセンスなんてしゃれたもの入れへんで。家にあるもんで、こないに美味しいもんが作れる。お互い落ち込んだことがあると、プリンを作ってたんや」
「そうだったんですね」
「そういうのも全部、見抜かれてる気ぃして、気色悪いわ」
円生はそう言って、スプーンを手にプリンを口に運ぶ。
一口食べて、うん、と頷いた。
「美味い」
「本当ですか?」
「ああ、俺は最近流行りのトロトロなやつより、こういう硬めの方が好きや」
「良かった」
私はホッとして、胸に手を当てる。
「あと、もうひとつ、渡したいものがあって」
「はっ? もう、そんなんええし」
「えっと、たぶん見たら、もっと『そんなもんいらん』って言うと思うんですけど」
私が苦笑して言うと、彼は逆に興味が湧いたのか、ん? と眉根を寄せる。
「なんやねん?」
私は気恥ずかしさを感じながら、木の箱を彼の前に出した。
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