5436人が本棚に入れています
本棚に追加
/233ページ
円生は黙って蓋を開ける。
「陶器の湯呑みやな」
深碧色の、円筒状の湯呑みだ。
「はい、最近、私、陶芸を始めまして、それは自分なりに上手くできた方で……綺麗な緑色を出せたと思うんです。この色を見た時、円生さんだ、と思ったんですよね」
言い訳するように、私は早口で言う。
「なんで、俺が深い緑色なんやろ?」
彼は湯呑みを見詰めながら、まるで独り言のように洩らす。
ホームズさんのマグカップは、深い藍色だった。
私の中で、彼は夜空や宇宙を思わせるためだ。
そして円生は――。
「勝手なイメージなんですけど」
「うん?」
「円生さんは、深い森の中にいる感じで」
そう言うと、彼は大きく目を見開いた。
「お礼の品に、こんな手前味噌はないですよね」
さらに恥ずかしくなった私は、湯呑みを片付けようとすると、
「いや、せっかくやし、もろとく」
円生は丁寧な手つきで、湯呑みを木箱に入れた。
良かった、と私は頬を緩ませる。
最初のコメントを投稿しよう!