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「ホームズはんにも、マグカップ贈ってたし、陶芸にはまったんやな?」
「今は、そうですね。最初はしんどかったんです」
「しんどい?」
「この『蔵』で素晴らしいものを見てきてしまっているので、自分の作る拙い作品が許せなくて、陶芸はやらない方がいいかもと思ったんです」
「そんなもんなんや」
「たぶん、ホームズさんが創作をしないのも同じ理由かなと思うんです。目が肥えている分、耐えられないのではと」
なるほどなぁ、と円生は腕を組む。
「でも、それって『良いものを作れない悔しさ』であり、怖さなんじゃないか、と思ったんです。そんなふうに感じるって、好きだからこそじゃないのかなって。それなら自分なりで良いから、やってみようと思えたんですよ」
そうなんや、と彼は相槌をうった。
「円生さんもレベルは違いますが、似た感じだったりしませんか?」
えっ? と円生は眉根を寄せた。
「こんな素晴らしい作品を描いてしまったわけですから、これを超す作品を生み出せないかもしれない、っていう怖さなんじゃないかって」
円生は何も言わず、頬杖をついたまま、絵に目を向けた。
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