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「もし、本当にもう描かないとしても、ひとつのケジメとして、展覧会を開いても良いと思いますよ」
なんやねん、と円生は笑う。
「一生懸命やな。ホームズはんに頼まれたんや?」
いえ、と私は首を振った。
「私が開きたいんです。『夜の豫園』に『蘇州』。円生さんの作品を、一人でも多くの人に観てもらいたい」
私がしみじみ言うと、彼はしばし黙り込み、そっと立ち上がった。
「まぁ、せやな。あんたが展示を担当してくれるなら、考えてもええ」
えっ、と私は目を瞬かせた。
「わ、私でいいんですか?」
「あんたは、あのサリー・バリモアの特待生なんやろ? お手並み拝見やな」
円生は意地悪く言って、木箱を手に取り、
「ほんなら、プリンと湯呑み、おおきに」
と、片手を上げて、店を出て行った。
「私が、円生さんの展示を担当……」
プレッシャーを感じるも、ドキドキと鼓動が早鐘を打つ。
これは、新たなチャレンジだ。
がんばろう、と私は静かに洩らして、拳を握り締めた。
京都寺町三条のホームズ ACT.8
~TheEND~
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