第一章 それぞれの歩みと心の裏側

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「陶芸は楽しかったですか?」 「はい。楽しかったですけど……」 「けど?」 「誘われない限りはやらないと思います」  そう言った私に、ホームズさんは、そうですか、と目を細める。  てっきり『どうしてですか?』と問われるかと思ったのだけど、彼は何も言わない。  きっと、私の気持ちを察してくれたのだろう。  私は幸か不幸か、良いものを観すぎてしまっている。  もし私が『蔵』やホームズさんに出会わないまま陶芸にチャレンジしていたら、このマグカップの出来映えを心から喜べただろう。 『初めてで、こんなにちゃんと作れるなんて、自分には才能があるのかもしれない』  なんて、浮かれていたにちがいない。  私は良いものに触れすぎて、自分の創作物の拙さに耐えられないのだ。  今回、陶芸にチャレンジしてみて、ホームズさんがクリエイターに憧れながらも、自ら創作をしない理由が分かった気がした。  私でもこんな気持ちになるのだ。プライドが高く完璧主義のホームズさんなら、自分の作品が許せないだろう。  その一方で、他人の創作物なら、どんなに拙くても愛しく思えるのに。 「そういえば、この前、上田さんが来ましてね。僕が、『このマグカップは宝物なんです』と伝えたら、『清貴がそう言うんやったら、価値があるんやろうな。なんやええカップやん。めっちゃ高そうや』と言ってましたよ」  その言葉に、私はゴホッとむせる。 「上田さん……。でも、たしかに信用のおける目利きが気に入っているものだと言ったら、作品として価値のあるものだと思ってしまいそうですよね」  そう思えば、あやふやなものだ。
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