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「陶芸は楽しかったですか?」
「はい。楽しかったですけど……」
「けど?」
「誘われない限りはやらないと思います」
そう言った私に、ホームズさんは、そうですか、と目を細める。
てっきり『どうしてですか?』と問われるかと思ったのだけど、彼は何も言わない。
きっと、私の気持ちを察してくれたのだろう。
私は幸か不幸か、良いものを観すぎてしまっている。
もし私が『蔵』やホームズさんに出会わないまま陶芸にチャレンジしていたら、このマグカップの出来映えを心から喜べただろう。
『初めてで、こんなにちゃんと作れるなんて、自分には才能があるのかもしれない』
なんて、浮かれていたにちがいない。
私は良いものに触れすぎて、自分の創作物の拙さに耐えられないのだ。
今回、陶芸にチャレンジしてみて、ホームズさんがクリエイターに憧れながらも、自ら創作をしない理由が分かった気がした。
私でもこんな気持ちになるのだ。プライドが高く完璧主義のホームズさんなら、自分の作品が許せないだろう。
その一方で、他人の創作物なら、どんなに拙くても愛しく思えるのに。
「そういえば、この前、上田さんが来ましてね。僕が、『このマグカップは宝物なんです』と伝えたら、『清貴がそう言うんやったら、価値があるんやろうな。なんやええカップやん。めっちゃ高そうや』と言ってましたよ」
その言葉に、私はゴホッとむせる。
「上田さん……。でも、たしかに信用のおける目利きが気に入っているものだと言ったら、作品として価値のあるものだと思ってしまいそうですよね」
そう思えば、あやふやなものだ。
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