第一章 それぞれの歩みと心の裏側

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 私たちは、小松探偵事務所への差し入れも買って、鴨川の河川敷を散歩した。 64597d23-3ea1-434d-8137-7b02fc26615f 「ここは相変わらずですね」  河原には、等間隔に座っているカップルの姿が見える。  それは、今や全国に知られている光景であり、そんな彼らからおこぼれを期待している鳥たちの姿もまた、鴨川名物だろう。  一組のカップルが、トンビにサンドイッチを奪われてしまったらしく、悲鳴に近い声を上げていた。  トンビは『おこぼれを期待する』なんて生易しいものではない。素知らぬ顔でチャンスを窺い、一瞬の隙をついて、獲物を手中に収めるのだ。 「あそこのカップル、お昼をトンビに盗られてしまったようですね」  私は、はい、と苦笑する。 「私も香織と河原でパンを食べている時、トンビに盗られたことがあるんですよ」  あれは高校生の頃だろうか?  私は香織と志津屋の『たっぷりクリームパン』を買って、河原に腰を下ろした。  紙袋からパンを取り出したその瞬間、私と香織の間を、まさに目にも留まらぬ速さの何かが通り過ぎたのだ。  気が付くと、手にしていたパンはなくなっていて、私と香織の顔がクリームまみれになっていた。  空に目を向けると、遥か向こうに飛び去って行くパンを咥えたトンビの姿を確認し、私と香織は呆然としながらも、揃って噴き出したのが少し懐かしい。  その話をホームズさんに伝えると、目に浮かぶようですね、と愉しげに目を細める。 「ところで、今トンビにサンドイッチを盗られたのは、その香織さんじゃないですか?」 「えっ?」  ホームズさんの言葉に、私は河原の方に目を凝らす。それは間違いなく香織だった。  男性の方は――、 「一緒にいるのは、秋人さんの弟さんの……春彦さんではないですか?」 「香織と春彦さん?」 「あの二人は親しかったんですか?」 「あ、はい。最近……」  二人が親しくなったのは知っている。  けれど、二人で鴨川に来るほどだとは思わなかった。  もしかして、二人は付き合っているのだろうか?
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