5440人が本棚に入れています
本棚に追加
私は、ぽかんとして二人の許に歩み寄ろうと、一歩前に出る。
「わー、驚いた。トンビは怖いなぁ」
「ほんまや。前に、葵といる時もパンを盗られたことがあるし」
楽しそうな二人の様子に、私は足を止めた。
良い雰囲気だ。
もし本当にあの二人が交際に至っていたとして、それを私に伝えていないのは、気持ちの問題もあるのだろう。
ちゃんと報告してくれるのを待つとしよう。
「ホームズさん、邪魔しちゃ悪いですし、行きましょうか」
私がそう言うと、彼も異論はないようで、分かりました、と頷く。
気付かない振りをして、その場から離れようとした、その時だ。
「あれ、葵とホームズさん?」
「本当だ、葵さーん、ホームズさーん」
私たちの姿を見付けた香織と春彦さんは、なんの躊躇もなく大きな声を上げた。
「あ、香織、春彦さん」
私たちは、今気が付いた振りをして会釈し、二人の許に歩み寄る。
「葵、今日はバイト休みやったんやね」
「あー、うん?」
店頭にはいないが、遊んでいるわけでもなかったので、私は曖昧に頷く。
「香織さんと春彦さんは、デートですか?」
さらりと訊ねたホームズさんに、私はぎょっとした。
だが、香織と春彦さんは顔を見合わせて、ぷっと笑う。
「いえいえ、ちゃいます、まさかそんな。もうすぐここで、秋人さんのドラマ撮影があるんですよ」
「これから僕たち、ドラマにエキストラ出演するんです」
少し誇らしげに言う二人に、
「秋人さんのドラマのエキストラを?」
私とホームズさんは、周囲を見回した。
二人が言う通り、スタッフらしき人たちが準備をしている。
最初のコメントを投稿しよう!