第一章 それぞれの歩みと心の裏側

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 ホームズさんは思い出したように、ああ、と口を開いた。 「そのドラマは、もしかして、『京日和事件簿』ですか?」 「あっ、前に言ってましたね」  秋人さんがプレゼンターを務めていた京都紹介番組『京日和』が、二時間サスペンスドラマになるという話は聞いていたのだ。  そうですそうです、と二人は笑顔で頷く。 「鴨川沿いで女優の死体が発見されるシーンやって」 「ドキドキするよね」  ザッとだが、冒頭のあらすじは聞いていた。  たしか、その女優さんは、アイドルの三人に『まるたけえびすに、気を付けて』という謎の言葉を伝えた翌日、鴨川の河川敷で遺体となって発見される、という流れだった。 「そうだ。葵さんとホームズさんも、良かったら一緒に出ませんか?」 「そやそや、一緒に出ぇへん?」  前のめりになる二人に、ホームズさんは、いえ、と手をかざす。 「僕は遠慮しますが、葵さん、もし良かったら」  私も、いえ、と首を振った。 「実は今、お遣いの途中で」  そうなんや、と香織は少し残念そうに言う。 「香織も春彦さんも、エキストラがんばってね」 「放送、楽しみにしていますね」  私たちは、二人に手を振って、河原から石の階段を上り、四条通に出た。  四条大橋から、香織と春彦さんを見下ろすと、二人も私たちの方を向いていて、大きく手を振っている。 「楽しそうですね」  私は、はい、と小さく笑って手を振り返す。  私たちは、そのまま木屋町通を南へと下がった。
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