第一章 それぞれの歩みと心の裏側

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       3  桜の木が連なる木屋町通は、春は薄紅色に彩られ、秋である今は葉が紅く色付いている。  さらさらと流れる高瀬川の水音を耳にしながら、情緒のある通りを歩いていくと、リノベーションした町家に掲げられた『小松探偵事務所』という看板が目に入った。 「こんにちは」  今、ここで修業期間中のホームズさんは、インターホンも鳴らさずに引き戸を開けた。 「おー、あんちゃん」  事務所の所長デスクには小松さんの姿。 「ホームズはんは、わざわざ彼女連れて、何しに来てん」  そして、円生の姿もあった。  円生は、自分のデスクに座っていた。耳の中に小指を入れながら気だるそうに訊ねる。 「その前に、あなたこそ、もう小松探偵事務所のスタッフではないというのに、デスクで何を?」  そう問い返された円生は、横目で小松さんを見た。 「上にいたんやけど、このおっさん、プログラミング作業に集中したら、まったく外部の音が聞こえなくなるんや。配送が来てインターホンが鳴ってるのに、反応せんから下りてきてん」  小松さんは、悪い、と肩をすくめる。 「音が聞こえてないわけじゃないけど、作業に集中しすぎて動けなかったんだ」 「まー、絵ぇ描いててもそういうことはあるわ」  円生は、同感したように言って、ホームズさんに視線を移した。 「で、あんたらはなんやねん」  ホームズさんが答える前に、私が口を開いた。 「あの、上海から円生さんの絵が返ってきたら、展覧会を開きたいと思いまして」
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