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桜の木が連なる木屋町通は、春は薄紅色に彩られ、秋である今は葉が紅く色付いている。
さらさらと流れる高瀬川の水音を耳にしながら、情緒のある通りを歩いていくと、リノベーションした町家に掲げられた『小松探偵事務所』という看板が目に入った。
「こんにちは」
今、ここで修業期間中のホームズさんは、インターホンも鳴らさずに引き戸を開けた。
「おー、あんちゃん」
事務所の所長デスクには小松さんの姿。
「ホームズはんは、わざわざ彼女連れて、何しに来てん」
そして、円生の姿もあった。
円生は、自分のデスクに座っていた。耳の中に小指を入れながら気だるそうに訊ねる。
「その前に、あなたこそ、もう小松探偵事務所のスタッフではないというのに、デスクで何を?」
そう問い返された円生は、横目で小松さんを見た。
「上にいたんやけど、このおっさん、プログラミング作業に集中したら、まったく外部の音が聞こえなくなるんや。配送が来てインターホンが鳴ってるのに、反応せんから下りてきてん」
小松さんは、悪い、と肩をすくめる。
「音が聞こえてないわけじゃないけど、作業に集中しすぎて動けなかったんだ」
「まー、絵ぇ描いててもそういうことはあるわ」
円生は、同感したように言って、ホームズさんに視線を移した。
「で、あんたらはなんやねん」
ホームズさんが答える前に、私が口を開いた。
「あの、上海から円生さんの絵が返ってきたら、展覧会を開きたいと思いまして」
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