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はっ? と円生は目を見開く。
「……展覧会て、誰のや」
「ですから、あなたのですよ、円生。『蔵』に飾ってある蘇州の絵や、高宮さん所有の『蘆屋大成』作品も含めて、家頭邸の一階で展覧会を開けたらと思いまして。もちろん、報酬なども……」
ホームズさんがそこまで言いかけると、彼はその言葉を遮るように立ち上がった。
「ええわ。遠慮しとくし」
私は、あっ、と声を上げて、彼の手をつかんだ。
「ちょっと待ってください」
「っ」
すると、円生は勢いよく私の手を払う。
驚いた私に、彼は少し申し訳なさそうな顔をしながらも、目をそらした。
「展覧会は、気が進まないですか?」
私が問うと、円生は目をそらしたまま首の後ろに手を当てる。
「せやね。そないな仰々しいのはええわ」
すると小松さんが、えー、と声を上げる。
「作品はたくさんの人に観てもらってこそだろ。これから画家としてがんばるなら、いい話だと思うけどなぁ」
そういう小松さんに、私も、そうですよ、と同意する。
家頭家の交友関係は、とても広く、なおかつ華やかだ。
きっと円生の絵を気にいる人との出会いもあるだろう。
「いや、いろいろ考えたんやけど、やっぱり俺はもう絵はやめようて思てるし、展覧会とかええわ」
円生は吐き捨てるように言う。
私もホームズさんも小松さんも、揃って目を見開いた。
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