第一章 それぞれの歩みと心の裏側

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「えっ、やめるって、そんな、どうしてですか?」 「そうだよ、円生。あれだけ描けるのにもったいない」 「本当です。あなたはようやく、目指すべき自分の道を見付けたのではないですか?」  詰め寄る私たちに、円生は声を荒らげた。 「うっさいわ、ほんま」  事務所内がシンと静まり返る。  円生は切なげに顔を歪ませて、そのまま事務所を出て行った。  私たちは困り切って顔を見合わせる。  小松さんが沈黙を破るかのように、あはは、と笑った。 「円生も虫の居所が悪かったんだろ。二人とも、せっかく来たんだから座ってくれよ」 「ありがとうございます」  私はホームズさんとともに、ソファーに腰を下ろした。 「ここに来てから、円生は絵を描いている様子でしたか?」  ホームズさんの問いに、小松さんは、うーん、と唸る。 「描いてるかどうかは……。あいつの部屋の中の様子までは分からないからなぁ。ただ、しょっちゅう出かけてるんだよ」  集中して絵を描く時間はないんじゃねぇかなぁ、と小松さんは洩らす。 「出かけているのは、昼ですか、夜ですか?」 「昼出て、帰ってくるのはきっと夜遅くだな。俺は夜九時くらいまで、ここでプログラミングの仕事してるけど、いる間には帰ってきてないし」 「それでは、きっと描いていないかもしれませんね」  ホームズさんは、少し寂しそうに言う。 「………」  出て行く前に見せた、円生の切なく苦しそうな顔が頭に浮かぶ。  それは、どこかで見た気がする表情だった。
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