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市片喜助さんが、『蔵』を訪れたのは、翌日の夜七時過ぎのことだった。
私たちがお店を閉める準備をしていると、カラン、とドアベルが鳴って、喜助さんが姿を現わした。
「あれ、もしかして、もう閉店だったかな?」
喜助さんは、目深くかぶった帽子を脱いで、少し申し訳なさそうに言う。
「こんばんは、喜助さん。お久しぶりです」
と、私は会釈をした。
喜助さんに会うのは、本当に久しぶりだ。相変わらず、華やかなオーラを放っている。
「あれ、葵さん?」
「はい」
「驚いた。すごく大人っぽくなって……もしかして、もう大学生?」
思えば、家頭邸で開かれた大晦日のパーティ以来かもしれない。あの頃は高校二年生だった。
「ええ。もう、大学二回生ですよ」
「そっかぁ、それは大人っぽくなるはずだよね。本当に綺麗になって……」
喜助さんがそう言いかけた時、ホームズさんが「いらっしゃいませ、喜助さん」と遮るように言った。
「どうぞ、お掛けください」
「久しぶり、ホームズ君。遅い時間にごめんね」
「大丈夫ですよ」
ホームズさんはにこやかに言って、「葵さん、すみませんが」と私に目配せをする。
お店を閉める準備を進めてほしいという意図を察知し、私は「はい」と頷いて、看板を中に入れ、扉に『CLOSED』の札を掛け、カーテンを閉めた。
[Ⓒ秋月壱葉先生 コミック版⑤巻より]![a87b2874-d1d3-4fc6-88f2-952bb7cb67be](https://img.estar.jp/public/user_upload/a87b2874-d1d3-4fc6-88f2-952bb7cb67be.jpg?width=800&format=jpg)
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