第一章 それぞれの歩みと心の裏側

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         4  市片喜助さんが、『蔵』を訪れたのは、翌日の夜七時過ぎのことだった。  私たちがお店を閉める準備をしていると、カラン、とドアベルが鳴って、喜助さんが姿を現わした。 「あれ、もしかして、もう閉店だったかな?」  喜助さんは、目深くかぶった帽子を脱いで、少し申し訳なさそうに言う。 「こんばんは、喜助さん。お久しぶりです」  と、私は会釈をした。  喜助さんに会うのは、本当に久しぶりだ。相変わらず、華やかなオーラを放っている。 「あれ、葵さん?」 「はい」 「驚いた。すごく大人っぽくなって……もしかして、もう大学生?」  思えば、家頭邸で開かれた大晦日のパーティ以来かもしれない。あの頃は高校二年生だった。 「ええ。もう、大学二回生ですよ」 「そっかぁ、それは大人っぽくなるはずだよね。本当に綺麗になって……」  喜助さんがそう言いかけた時、ホームズさんが「いらっしゃいませ、喜助さん」と遮るように言った。 「どうぞ、お掛けください」 「久しぶり、ホームズ君。遅い時間にごめんね」 「大丈夫ですよ」  ホームズさんはにこやかに言って、「葵さん、すみませんが」と私に目配せをする。  お店を閉める準備を進めてほしいという意図を察知し、私は「はい」と頷いて、看板を中に入れ、扉に『CLOSED』の札を掛け、カーテンを閉めた。 [Ⓒ秋月壱葉先生 コミック版⑤巻より]a87b2874-d1d3-4fc6-88f2-952bb7cb67be
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