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「他に相談できる人もいなくて。そうしたらホームズ君の顔が頭に浮かんだんだよ」
ホームズさんは、分かりました、と言って、懐中時計に視線を落とした。
「この懐中時計をあらためても?」
もちろん、と喜助さんは頷く。
ホームズさんは白い手袋をして、懐中時計を手に取った。
色はゴールドで、蓋にはコスモスだろうか、五枚の花弁が開いている花の絵が彫られている。花の横に丸い実もなっていた。
文字盤はシンプルで、時計の縁取りとリューズはゴールドだった。
ふむ、とホームズさんは唸る。
「スイスの高級時計メーカー、パテック・フィリップの懐中時計ですね。こちらは『リコシェ・シリーズ』と言いまして、スイスの宝飾家、アルべ・ジェルベとの共同制作で、作られた期間がとても短い、大変貴重なものです。価格にすると二百万くらいでしょうか」
喜助さんは、二百万、と息を呑む。
「そんな高価なものだったんだ」
「……麗さんは、なかなかの名家の出だとか。家に伝わっていたものかもしれませんね」
「そうだ。麗さんは元々、芦屋のお嬢様なんだ。幼い頃から、ピアノやバレエ、日舞をやっていて、宝塚に入りたいと親に懇願したとか。でも親に反対されて、ほとんど勘当状態で宝塚に入ったという話だよ。もうずっと、実家には帰っていないとか」
その話は初耳だったため、私は、へぇ、と相槌をうつ。
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