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「もしかしたら、これは家から持って来た、麗さんの宝物だったのかもしれませんね。ただ、蓋の花だけは、後から――最近彫られたもののようです。これがあることで、金額的な価値は下がるでしょう。おそらく、そうなると分かっていてもこの花を刻みたかった。この花は二人の間で特別な花でしたか?」
喜助さんは、ホームズさんの手の中にある懐中時計に目を落とす。
いいえ、と喜助さんは困ったように、首を振る。
「コスモスに特に何か思い出があるわけではなくて……。僕もこの花に何か意味があるのか調べはしたんだ。コスモスの花言葉は、『謙虚』『乙女の真心』『調和』だった。だから、『コスモスのような人と幸せになって、時を刻んでほしい』ということかとは思ったんだけど、自分の中でどうにもしっくりこなくて」
喜助さんは、そう言って頭に手を乗せ、クシャッと髪をつかむ。
ホームズさんは、「えっ?」と洩らして、動きを止めた。
「『えっ』て?」
私と喜助さんはきょとんとして、ホームズさんを見た。
「――喜助さんは、この花をコスモスだと思ったんですか?」
ぽかんとしているホームズさんに、
「コスモスじゃないの?」
喜助さんもぽかんとする。
私もコスモスだと思っていたので、少し戸惑った。
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