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「今日は、おっさんにお願いがあったんや」
お願い?
予想外の言葉に、小松はぱちりと目を瞬かせる。
円生がこの自分にお願いすることなんて、何があるというのだろう?
「おっさんが言う通り、俺はもう柳原先生の弟子やなくなったんや。これまで、柳原先生の家に身を寄せさせてもろてたんやけど、そこを出なあかん。柳原先生はいくらでもおって構わへんて言うてくれてるんやけど、そういうわけにはいかへんし」
円生は、これまで柳原邸で住み込み、師匠の身の回りの世話をしながら、修業してきた。
そう言うと聞こえがいいが、実際は居候のようなものだったのだろう。
そうだよなぁ、と小松は洩らす。
「そこまで甘えられないよな。つまり、物件探しを手伝ってほしいということか?」
「そのうちそういうんもお願いするかもしれへんけど、ここの二階、ほとんど使てないやん。一時的でええんやけど間借りさせてもろてもええ? ちゃんと家賃は払うし」
ここで? と小松は目を見開いた。
すると清貴が、それはいいですね、と微笑む。
「円生はこう見えて綺麗好きですし、ここに住んでもらえたら防犯にもなり、なおかつ、小松さんは常日頃、ここの家賃が高いとぼやいていたくらいですし」
「たしかに、ぼやいてたけどよ」
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