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「和歌は、まだあるみたいだね。他にも調べてみよう」
他にも花橘を使用した和歌は多くあったが、どれもピンとは来ないようで、喜助さんは顔をしかめている。
喜助さんは、ページを指でなぞり、ある和歌のところで手を止めた。
――君が家の 花橘は成りにけり 花なる時に逢はましものを
作者は、『遊行女婦』という。当時の芸妓のようなものだろうか。
その意味は、
『あなたの家の花橘は、すっかり実になってしまっているんですね。花の咲いているうちに、もっと早くに逢っていたかった』
「――っ」
喜助さんは言葉を詰まらせて、口に手を当てている。
〝喜助君は、すっかり身を固めてしまうのね。自由な身であるうちに、もっと
会っていたかったな〟
そんな麗さんの声が、私にも聞こえた気がした。
「……麗さん」
喜助さんは拳を握りしめて、目を瞑った。
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